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2019年11月11日
「しきさい」による秋の日本列島の土地被覆変化

気候変動観測衛星「しきさい」は順調に地球の観測を続けています。「しきさい」のデータを使うとみなさんがよく目にするような地図も作成する事ができます。今回は「しきさい」搭載の多波長光学放射計(SGLI)を用いて作成した地図の一つ「土地被覆マップ」を紹介します。

「土地被覆マップ」とは地表面が何によって覆われているかを表したマップです。森林や草地、建物、裸地、水域などを分かり易い色に割り当てて表した地図です。「土地被覆マップ」を使うと衛星画像をそのままカラー表示した図では分かり難いようなものも分かり易く表示され、また定量的な評価も可能になります。

「しきさい」搭載センサSGLIの特徴の一つは多波長(19波長)で高頻度(場所に依りますが2.5日に1回程度)に観測できるという点です。地球観測に使われるこのようなセンサには、米国の衛星Terra/Aquaに搭載されたMODISや欧州の衛星Sentinel-3に搭載されたOLCI/SLSTRなどがありますが、SGLIは解像度250mで可視域から短波長赤外まで観測できるという点が強みです。今回は「しきさい」のデータを用いて土地被覆マップを作成し、日本列島の土地被覆変化を追ってみました。

図1は、「しきさい」が主に2019年8月に観測したデータから作成した日本列島の土地被覆マップです。この土地被覆マップは、森林域は針葉樹と広葉樹、非森林域は2019年8月の植生状況によってカテゴリーを分けています。この土地被覆マップはまだ開発中の為、都市域や水域といった区別はできておらず、誤分類も多く含まれます。しかし月毎に土地被覆マップを作成するとカラー画像では分かりづらい様な変化も表現出来ます。

図1:「しきさい」搭載のSGLIによる主に2019年8月の観測データを用いて作成した日本列島の土地被覆マップ。森林以外は植生状況によって分類している。雲の影響などによって土地被覆分類が出来なかった箇所は2019年7月以前の土地被覆マップを上書きしている。また水域は、陸域反射率のLand/Waterデータをそのまま用いている。

土地被覆マップの一つに“被覆率マップ”という地図があります。これは最近の土地被覆マッピングのトレンドの一つで、一つのカテゴリに分類するのではなく、森林や裸地、農地などがそれぞれ何%含まれているかを表したマップです。今回は、緑葉、紅葉、黄葉の被覆率(それぞれ何%含まれているか)を計算して、緑・赤・黄に割り当てて図化してみました(図2)。この図は、図1の森林域に対して毎日の「しきさい」観測データを用いて分類し動画にしています(2018年のデータの方も背景には2019年8月の土地被覆マップを用いています)。森林域を葉のついた森林、落葉林に分類し、さらに緑葉、紅葉、黄葉の被覆率に分類しています。落葉した森林は濃茶色、葉の密な森林は緑・赤・黄で表示しています。しかし実際には森林内の葉が緑、紅、黄のどれかに当てはまるという訳ではなく各葉が少しずつ変化していくので、全体的に黄葉が多い所は黄、緑葉が多い所は緑で表されていると考えて下さい。樹木密度が疎な森林や、落葉木と葉のついた樹木が混じっている様な森林は考慮していないのでこの図では誤差として現れていますが(落葉木と緑葉木が混じっている場合は黄色で表示されているというような感じに)、全体的な変化を追う事ができます。

図2:「しきさい」搭載のSGLIによる観測データを用いて作成した2018年(左図)と2019年(右図)の秋の日本列島の土地被覆変化マップ。9月以降の各日の被覆マップを作成し3日間隔で動画にした。紅葉が主な森林は赤、黄葉が主な森林は黄、緑葉が主な森林は緑に割り当て、それぞれが混じった森林は中間色で表現している。落葉林は濃茶色、非森林は植生密度に応じてピンクから灰色に割り当てた。SGLI観測データが無い日や雲の影響がある場所はそれ以前の日のデータを使っているので日付はあくまでも目安である。

図3は、2019年のマップ(図2右)の東北地方と関東地方の拡大図です。東北地方では森林の樹葉の変化、関東甲信越では水田の稲刈りによる植生密度の変化が分かります。

図3:「しきさい」搭載のSGLIによる観測データを用いて作成した2019年秋の東北地方北部(左図)と関東甲信越(右図)の被覆変化マップ。9月以降の各日の被覆マップを作成し3日間隔で動画を作成した。

図4は、北海道札幌市付近の被覆マップ、「しきさい」観測データから作成したカラー合成画像、ヨーロッパの高解像度地球観測衛星Sentinel-2B搭載MSIデータ(解像度10m)から作成したカラー合成画像です。衛星カラー画像上の黄葉が多い部分(明るい黄緑色の部分)と緑葉が多い部分(濃い緑色の部分)が、被覆マップ上で黄葉が主と分類された部分(黄色い部分)と緑葉が主と分類された部分(緑色の部分)にそれぞれ対応しているように見えます。まだ精度には問題があるようですが、高精度の被覆マップを作成できればいつどこで紅葉・落葉・植生変化が進んでいるのか、どのように変化しているのかが定量的に分かる様になります。

図4:北海道札幌市付近(上図赤枠内)の2019年10月21日の被覆マップ(左下図)、2019年10月21日の「しきさい」カラー合成画像(R:G:B=VN08[673.5nm]:VN06[565nm]:VN04[490nm]、中央下図)、Sentinel-2B/MSI(解像度10m)による2019年10月20日のカラー合成画像(R:G:B=b4[664.9nm]:b3[559.0nm]:b2[492.4nm]、右下図) 。

現在世界の研究機関などで作成されているグローバル土地被覆マップは、みなさんがよく目にする降水確率や天気予報のメッシュ図と比べるとまだまだ精度は高くはありません。「しきさい」のような地球観測衛星は高頻度で観測しますが、それでも観測できない日や雲の影響で良好なデータが得られない日が多くあります。土地被覆マップを作る際はこれらが精度低下の大きな要因の一つとなります。JAXAではこのような課題を克服して高精度な土地被覆マップを開発していく予定です。

土地被覆は衛星画像を使って得られる主要な情報の一つです。みなさんも「しきさい」(GCOM-C/SGLI)の「L2-陸域反射率」というデータを使って自分の住んでいる地域の土地被覆マップを作ってみては如何でしょうか。「しきさい」のデータは地球観測衛星データ提供システム(G-Portal)のサイトからユーザ登録すると誰でも自由に入手できます。

※本記事の土地被覆マップ作成において、海洋研究開発機構(JAMSTEC)小林秀樹主任研究員開発のFLiES1) [Forest Light Environmental Simulator]、国立環境研究所野田響主任研究員らによる反射率・透過率データ2)を用いました。また、図1の土地被覆マップ作成にはJAXA生態系研究グループ作成の土地被覆referenceデータ、図2の樹葉マップ作成には千葉大学環境リモートセンシング研究センター(CEReS)Wei Yang特任助教作成の林分構造データを用いました。

  • 1)Kobayashi, H., and H. Iwabuchi. A coupled 1-D atmosphere and 3-D canopy radiative transfer model for canopy reflectance, light environment, and photosynthesis simulation in a heterogeneous landscape, Remote Sensing of Environment, 112, pp. 173-185, 2008
  • 2)Noda, H., Motohka, T., Murakami, K., Muraoka, H., and K.N. Nasahara. Reflectance and transmittance spectra of leaves and shoots of 22 vascular plant species and reflectance spectra of trunks and branches of 12 tree species in Japan, Ecological Research, 29, pp. 111. ERDP-2013-02.2.1, 2013
    (http://db.cger.nies.go.jp/JaLTER/metacat/metacat/ERDP-2013-02.1.1/default)